帰国とその後

《スピンオフ》Dear my friends / julie

背景、友人たちへ

 

元気ですか?

私は日々、日本の都会の人混みを、埋もれぬよう、飲み込まれぬよう、人にぶつからぬよう、なるべく何も見ないよう、歩いて会社と家を行き来しています。

ここにはあの神々しい山々も、どこまでも続く切り立った雲も、フレンドリーな隣人もいないけれど、それでも毎日、生きています。

あんなに毎日笑顔で挨拶してた私が今や、些細な世間話ですらできず声が裏がっているなんて、きっと誰も想像できないでしょう。毎日毎日ほとんど口を開くこともなく、友人にはLINEで仕事の愚痴ばかり言っている自分が嫌で嫌で、どうしようもありません。

スーツに囲まれて息がつまるような通勤時間、何気ない君たちのことを思い出す私は、どうやら本気でホームシックみたいです。

先週のこと。人でごった返す駅の中で、花柄のハーフパンツにジャケット、飾りのついた帽子を被った素敵なおじさまを見かけました。そしてマーティン、君を思い出したよ。

君がバンフの道端で敬意を表していた、あのおじいさんを思い出したよ。

きっとあの狭い狭いバンフの町で、地元民には有名人であろう”あの”素敵な帽子のおじいさんを。

そしてその瞬間、私はあの夏の日の、よく晴れたあの町の、あの交差点にいて、心がふっと軽くなって、いつの間にか笑ってた。笑ってる自分に驚いて、こんな風に自然に顔が笑顔になるのは、どれだけぶりかと思い返して、いかに毎日うつむいてるか思い知らされて。

ホームシックだと気が付いたんです。

 

ニコル、ここには「帰りたいと言いなさい」と言ってくれる上司も、拍手で褒めてくれる役職持ちも、すれ違いざまにハイファイブする同僚も、カナビスの吸いすぎで頭おかしくなってる愉快なアイツも、素敵なタバコ友達も、笑顔でドアを開けててくれるスタッフも、美味しいカフェモカもない。

それがこんなに寂しいことだなんて、思いもしなかった。

 

ファザール、他のチームのことだらだらしやがってって言いながら働いててごめん。あとペットボトルパクって集めてごめん。お客さんいい人が多かったな。毎日カナビス吸って咳き込んでた隣の彼女は元気かな。でもキッチンでぎゃーぎゃー騒ぎながらピンポンやってたアイツらはどうかと思う。

カルガリーへ戻ってから腰は痛まなくなったけど、そこで痛めて以降うつ伏せができなくなったよ。

 

あの素晴らしい世界で出会った全ての人の、名前をなんで私は書き残さなかったんだろう。

友人ではなかったけれど、同僚や上司だった彼らの存在も、書き留めておけばよかったと今では思います。

 

長年日本にいて、なんだかどうにも合わないと知りながら、それでも暮らして、ついぞ飛び出たカナダで生きて、戻った日本はまるで異世界で。なぜ自国がこんなにも生きづらいのかと、涙が出ます。

カナダ以前含め、あなたたちが認め、褒めてくれたり、笑ってくれたり、相談してくれた私は、今や全くの別人です。良いことよりも嫌なことばかりに目が行って、そんな自分が嫌だと嘆いて、何にも自分の実力を発揮できず、全てに疲れて幸せになりたいとか思うのです。毎日自分で思うのです。誰だこれ、なんだこれ、って。それが非常に悔しいのです。

だから、私は、ここで仲間と一緒に、人生を面白くすることをしようと思います。

自分ひとりで何かをしでかせるほど、私はスティーブ・ジョブスではないので。

仲間たちが共に歩いてくれる限りは、その全力を持って、仲間たちと我々が関わった人々の人生を面白くしたいのです。

それが、いつかまたあなたたちに出会ったときに、胸を張れる理由になるとも思うから。

こんなところで負けるか。

 

待ってろ世界、待ってろ日本、これからの多くの若者に、日本が生きづらいなんて思わなくていい居場所をつくってやる。

 

 

 

/ julie